対談③ グローバル4極体制のガバナンス強化に向けて

日本酸素ホールディングス(株) 社外取締役 山田 昭雄と日本酸素ホールディングス(株) 社外取締役勝丸 充啓の写真

日本酸素ホールディングス(株)
社外取締役 山田 昭雄

日本酸素ホールディングス(株)
社外取締役 勝丸 充啓

当社のガバナンス改革にリーダーシップを発揮してきた山田 昭雄、勝丸 充啓の両社外取締役。これまでの就任5年間を振り返り、取締役会の実効性、ホールディングス体制化の意味や今後の課題、コロナ禍への対応など、さまざまなテーマをめぐって自由に語り合いました。

コード導入後の5年間を振り返って

勝丸:私と山田さんが当社の社外取締役に就任した2015年は、ちょうどコーポレートガバナンス・コード(以下、コード)が策定された年です。当時の大陽日酸(株)の経営陣がコードの理念を真摯に受け止め、具体的な取り組みをスタートした時期にあたります。コードの主要なテーマの一つが取締役会の充実強化だったわけですが、実際この間、当社グループの取締役会はいくつかの点で変貌を遂げていきました。
 第一に、取締役会における議論の活発化です。私たちが言わば部外者の視点で自由に質問し意見を述べるのに触発されたのか、社内取締役の方々も以前より積極的に発言されるようになってきました。
 第2に、取締役会の責任の明確化です。取締役会で一元的に経営の重要事項を決定する、透明性あるガバナンスに変化していきました。
 それから第3に、何といっても指名・報酬諮問委員会の設置です。市原社長の英断で、社内の重要人事のアカウンタビリティを確保し、十分に議論して物事を決める形をつくってきました。特に委員長として委員会を率いてこられた山田さんの役割が大きかったと思います。

山田:指名・報酬諮問委員会は、市原社長と私たち2人の計3人で構成され、開催回数は2020年3月期の1年間で11回と、頻繁に活動しています。直近の委員会の最大のテーマは将来の社長候補の選定でした。他社のベストプラクティスなどを参考に、実際の選考プロセスにおいては、複数の候補者とそれぞれ面接し、評価・選考基準を基に人選を進めてきました。これからの課題としては、「将来の経営幹部候補の育成」をどのようにするかが重要なテーマとなっています。

勝丸:ここでいわゆる親子上場の問題に触れておきたいと思います。当社は(株)三菱ケミカルホールディングスの連結子会社であり、同社が当社グループの親会社(支配株主)にあたります。こうしたケースで焦点になる少数株主の利益保護について、重要なポイントが2点あると考えています。
 第一に、当社のガバナンスにおいては社外取締役の独立性によって一定の制度的保障がなされています。私たち2人は親会社と無関係の独立した立場にあり、取締役会その他の場において、常に少数株主保護の問題意識を持って発言するよう努めています。
 第2に、親会社である(株)三菱ケミカルホールディングスは、当社ガバナンスの自律性を非常に重視するスタンスを取っているため、支配株主によって少数株主の利益が害されるおそれは今後とも非常に小さいと認識しています。

山田:2018年以来、上場子会社の少数株主保護の問題が議論されています。勝丸さんが指摘されたとおりであり、私たち独立社外取締役の役割が重要になっていると考えています。

取締役会におけるダイバーシティ

山田:もう一つ重要なテーマが、取締役会構成の多様性確保です。例えば、女性取締役の選任などです。市原社長はじめ私たちもこの課題に真摯に取り組んできましたが、結果的に実現に至らず残念ですが、引き続き誠実に真剣に取り組んでいきます。
 次に、2019年の総会で米国事業のMatheson Tri-Gas, Inc.(以下、MTG)の Kallmanカルマン会長・CEO及び2018年末に新たにグループに加わったNippon Gases Euro-Holding S.L.U. (以下、NGE)のElejosteエレホステ会長・社長のお二人が取締役に選任され、取締役会の構成も大きく変わりました。

勝丸:経営陣はこのテーマに積極的な姿勢で臨んでおり、引き続き取り組みを強化する方針です。また、今言われた米国・欧州の事業会社トップの参画、さらに2020年からはMTGへの出向経験もある濱田副社長が抜擢されたことで、取締役会での議論にこれまで以上にグローバルな視点がもたらされています。後で触れるコロナ禍への対応をはじめ、どのようなテーマを論じる際も、常に欧米など世界の現状に目配りできるようになりました。
 また当社は2015年10月より、取締役会の実効性評価を導入しています。ここはコードへの対応で一番苦心したところでもありますが、質問票による各取締役からの意見集約、その結果を踏まえた丁寧な議論と問題解決に向けた実践という枠組みが設置されたのは、非常に大きな成果です。
 さらに当社のガバナンスで特徴的なのが、強力な監査役会の存在です。私たち社外取締役が意見を述べるにあたっても、非常に支えになっています。取締役会と監査役会の双方で多様性が確保され、この2つの会議体がしっかり機能していると思います。

山田:常勤監査役4人のうち3人が社外監査役で、いずれも企業経営の経験や会計知識の豊富な方々です。指摘される内容も鋭いですし、取締役会などで積極的な意見を述べられます。ここは他社とはかなり異なる部分だろうと思います。
 取締役会評価は、各社とも実行する方法が難しいと言われていますが、当社ではアンケートを実施して、その結果を踏まえて執行側から具体的な提案がなされ、改めて取締役会で検討する仕組みになっています。例えば、上程される議案の絞り込み、業務報告の簡略化、投資モニタリングの強化などは、こうした取り組みの成果です。加えて、監査役会からも積極的な意見や提案が出されています。

勝丸:自己変革の能力が非常に高い組織ですね。コード導入前と比べると、この5年間で実に多くの変化がありました。ESGやSDGsについても多くの方が関心を持つようになってきました。
 これから企業には、経営主体のダイバーシティと並んで、時代に即して自己変革できる力が求められていくでしょう。そして当社はそうした要請に現実に応えてきた会社だと思います。

コロナ禍への対応を通じて見えてきたもの

山田:コロナ禍への一連の対応は迅速でした。取締役会には2月以降ずっと最新状況の報告が上がっており、4月には感染防止の指針も策定されました。また先ほど勝丸さんが指摘されたように、Kallmanカルマン会長・CEOとElejosteエレホステ会長・社長が取締役会に入られていますので、日本国内だけでなく米国及び欧州各国の全体的な感染状況や経済へのインパクト、当社グループのビジネスや取引先との関係への影響など、大局的な話を直接伺い、意思決定に反映できています。感染収束の見通しが立たない中、需要業界の動向などさまざまな情報に基づき、年度内の業績回復に向けて日本、米国、欧州、アジア・オセアニアで一体的な取り組みを進めています。
 もう一つ重要なのは、企業の社会的責任への対応です。医療機関における人工呼吸器の確保が危惧される中、当社の100%子会社であるアイ・エム・アイ(株)は、医療機器販売会社としてまさに供給の最前線に立ってきました。また、医療用酸素の供給を行っている会社もあります。各社の社員は、医療関係者と同様、自らも感染のリスクを抱えつつ献身的な努力を続けています。

勝丸:コロナ禍をめぐっては皆さん素晴らしい対応をされたと思います。特に印象深いことが2点あります。
 一つは、社内外へのマスク供給についてです。この5月、当社は医療用マスク計150万枚を医療機関などに寄付しました。ちょうど世の中全体でマスク不足が叫ばれていた時期のアクションであり、東京都知事から感謝状も贈呈されました。また社員全員に一人100枚のマスクを配布し、感染防止に努めています。いずれも非常に積極的で有効な取り組みだったと評価しています。
 もう一つは、欧州をはじめとするコロナ禍での産業ガスの供給対応についてです。取締役会でNGEのElejosteエレホステ会長・社長よりイタリアにおけるコロナ禍での対応について説明がありました。NGEの方々が感染のリスクを負いつつ、現地の病院に酸素を送り届ける様子が視覚的に示され、当時の現地の状況をよく理解できました。
 今回の一連の事態を通じて、多くの企業が「自社は何のために存在するのか」「社会の中でどのような役割を果たしているのか」といったことを見つめ直されたのではないでしょうか。そして当社グループはその役割を立派に果たし、自らの存在意義を再確認されたように思います。

山田:まさに「進取と共創」というグループ理念がそのまま実践されていると感じますね。

客観的でわかりやすいESG開示を

山田:近年、企業のESGの取り組みに社会的関心が集まり、資本市場においてもESG投資や社会的責任投資(SRI)が重視されています。こうした状況を踏まえれば、当社グループのESG開示のあり方は、さらに工夫を重ねていく必要があると思います。例えば、当社グループでは、金属の切断・溶接や高炉での製錬といったさまざまな局面で、作業・燃焼効率の向上と環境負荷低減に資する多くのガス・アプリケーションを提供しています。こうした取り組みにフォーカスした、より直観的でわかりやすい説明によってステークホルダーの理解を得ることも大切でしょう。

勝丸:ESG開示における客観性と直観性の両立は、なかなか難しい課題ですね。  ただ、ここで着目すべきは、当社グループの業態そのものが非常にサステナブルだということです。産業ガスのビジネスは、大気中の酸素や窒素を取り込み、それらをエネルギーに変換した上でまた大気中に放出するという、見事な循環プロセスを形成しています。そしてこの酸素・窒素サイクルが、世界各国の産業をさまざまな局面で支えています。ガスのこうした社会的役割、ユニークな価値創造のあり方について、よりわかりやすく訴求していく必要があるように思います。

山田:例えば、リニアモーターカーの技術が液体ヘリウムによる超電導に支えられているように、人類の進歩、経済の発展に産業ガスはなくてはならないものなのですね。  米国・欧州の事業会社トップが取締役会に加わったことによる影響は、ESGへの視点の変化にも表れています。例えば、2019年に当社グループはTCFDへの賛同表明を行いました。これをめぐる取締役会の議論で、当社グループが競合するメジャーにおける事例を引き合いに出して、当社グループの取り組みももっとスピード感を持って行うべきであるとの意見が提起されました。

欧州事業の取得とシナジー創出

勝丸:2018年末の欧州事業(現・NGE)の取得は、自社の年間の売上に匹敵する買収資金の投入という大きな決断を下したわけですが、決定に至るまでには私たちも買収を積極的に後押しする意見を述べました。というのは1990年代以降、停滞の続く日本経済に対し、米国・欧州はそれなりに確実な成長を遂げている。当社グループがさらなる成長・変化をめざすには、国内だけの努力では限界がある。この案件の背景などを踏まえると、従来の路線の継続や連続性にこだわらない、社外取締役としての自由な発想から「チャンスは今しかない」と考えたのです。まだまだこれからが重要ではありますが、ここまでは順調といってよいと思います。

山田:企業トップの適切な決断を支え、それを軌道に乗せるための基盤をつくっていくことも私たちの大切な役割でしょう。市原社長は極めて大きな決断をされ、当社グループの持続的な成長の道筋をつけたと思っています。  また、NGEの統合プロセスにおいて、NGEの経営幹部の皆さんは、積極的に統合プロセスに臨んでくれました。さらに、統合後のシナジー効果創出の議論にはNGE、MTG幹部も加わりました。Elejosteエレホステ会長・社長から、「電子材料ガスにおけるグローバル顧客深耕」「エンジニアリング部門の連携による事業機会創出」「ガス・アプリケーション技術の相互活用」など、具体的な提案があり、これに基づいて国際事業本部(当時)やその後のグローバルな委員会で議論を深めてきました。  このように順調にPMIも進んでおり、グローバル4極体制とサーモス(株)の経営効率を最大限に高めるためには、持株会社体制への移行、持株会社はできる限りスリムにするという結論に達しました。こうして当社グループは、この10月1日から新たな体制で再出発することになりました。

勝丸:グループ経営の理念や政策は当社が打ち出す一方、各事業会社は相当程度の裁量と責任を有し、自律的に事業を推進していく。一般に持株会社体制についてはさまざまな見方がなされていますが、グローバルな各地域の特性や強みを生かしつつ、効率的・合理的なグループ経営を進めていく上で、一つの究極的な形ではないかと考えています。またこの問題を議論するにあたって、私が申し上げたのは社名変更についてです。この際、新たなホールディングス体制を明確に反映する社名にしてはどうかと考えたのです。そして大陽日酸(株)という社名は歴史を背負ったよい社名なので、国内事業会社として社名を残しています。また、執行機能として事業運営に特化していくということでは、国内では産業ガス事業の経験豊富な永田取締役を国内事業会社の大陽日酸(株)の社長に起用したということも持株会社体制に適ったものと考えています。

山田:通常の事業会社においても、傘下に多くの子会社などを抱えている場合は、グループとしてのガバナンスの強化が大きな課題となります。その点、持株会社である日本酸素ホールディングスは、まさにグループガバナンスのための組織であり、グループ全体の事業戦略・管理機能・リスク管理・シナジー創出といった機能を効率的に発揮していくことになります。  一般にグループシナジーの創出には、ITを活用した情報共有や財務管理が不可欠です。これに関連して、NGEで財務経理とITを担当してこられたDraperドレイパー CFOを、日本酸素ホールディングスの執行役員 財務・経理室長 兼 CFOに起用しました。執行体制におけるダイバーシティやグローバル化に資するだけでなく、社内の各方面に広範な波及効果が出てくるだろうと見ています。

勝丸:このようなダイバーシティは新生・日本酸素ホールディングスグループをさらに大きく変えていくでしょう。欧州各国でビジネスを展開してきたNGEは、グループ運営に関する多くの知見を有しています。従業員との関係性やESGへの姿勢も奥深いものがあります。MTGに続きNGEという新たな仲間を得た当社グループが、今後さらなる変化・成長を続けていくことを期待しています。

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